2003年4月1日火曜日

2003年度「情の技法」

■2003年度 総合講座 「情の技法」

コーディネーター :
巽 孝之 (教授: 米文学)
坂上貴之(教授: 心理学)
坂本 光 (助教授: 英文学)
宮坂敬造(教授: 人間科学)
岡田光弘(教授: 哲学)

■講義要綱
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」。おなじみ夏目漱石の『草枕』(1906年)の冒頭である。プラトンからカントを経て現代にまで至る西欧形而上学の伝統は、これまで知・情・意を基本に人間の認識能力を分析し再検討してきたが、それに対し、この極東の明治文学者は限りなくブラックに近いユーモアをもって洒落のめしてしまった。

さて、今回、わたしたちのオムニバス授業が問題とするのは、そもそも近代精神の発祥ともされる18世紀啓蒙主義時代において、そこで特権化されたのがたんに「知」ばかりでなく「情」でもあったこと、「知」と「情」をともに制御する営みこそ 21世紀にまで至る現代史の大きな課題であったことが、往々にして忘れられている点だ。「知」に関してはいくらでもその遺産が蓄積され壮大なるアーカイヴが構築されてきたものの、それでは「情」のデータベースは構築可能だろうか。「情」には情緒、情熱、感情など多様なる表情があるが、さてそれはたとえば emotionやsentiment、sympathyなどとどの程度重なり、どの程度食い違うのだろうか。こうした側面に関する研究は、20世紀後半以後の知的最先端においては心性史の分野を確立したが、それは我が国独自の心性史研究として耕された九鬼周造の『「いき」の構造』や土居健郎の『甘えの構造』などの伝統といかに相互交渉しうるだろうか。多彩な講師陣を迎えて、「情」の構造と記憶と技術を探る。

授業は上述のような主題に沿って、多数の塾内外の講師をお招きして展開する。講師陣と参考図書については、ウェッブページを通じて随時お知らせしたい。試験は、講義内容や参考図書で得た知識を問いつつ、それらを有機的に再構成したうえで表現してもらうような出題を予定している。

■講義日程
04/08 コーディネーターによるガイダンス
04/15 梅田聡(文学部: 心理学)
   「情動と記憶の脳内メカニズム」 参考文献
04/22 浜日出夫(文学部: 社会学)
   「ノスタルジア」
05/13 朽木量(文学部非常勤: 民族学考古学)
   「『モノ』から/への情をよむ—考古学からのアプローチ」
05/20 渋谷誉一郎(文学部: 中国文学)
   「中国古典文学における情の技法—明代白話小説を中心として」
05/27 ALI PROJECT(幻想系音楽ユニット)
   「血と蜜」 <西校舎ホール> 写真
06/03 平田栄一朗(文学部: 独文学/演劇学)
   「感情の総動員化——ゲオルク・フックスの演劇革命」
06/10 石黒節子(お茶の水女子大学教授/舞踊家: 舞踊表現行動学)
   「情の身体表現—舞踊の技法:『江戸のかたち』(ダンス実演)を事例に」
   <北館ホール> 写真
   ■ダンス公演
   石黒ダンスシアタ−公演「江戸のかたち」
   出演: 石黒節子 若松武史 山火わか子
   指宿ひとみ 雨宮博美 糟谷節子
   秋田有希湖 岡野絵理子 他
06/17 森川嘉一郎(桑沢デザイン研究所特別任用教授、早稲田大学客員研究員:意匠論)
   「趣味と都市」参考文献
06/24 坂本光(コーディネーター)
   「脅威と異物—フィクションのなかの敵役について」参考文献
07/01 宮坂敬造(コーディネーター)
   「気まぐれに、からだを回し、美をひきよせれば……—動物行動学を枕とした文化人類学風<情の技法>談義」
07/08 西村太良(文学部: 西洋古典学)
   「Ovidius, Ars Amatoria の世界」参考文献
07/15 宮林寛(文学部: フランス文学)
   「病と身体像」 参考文献
09/30 巽孝之(コーディネーター)
   「情の批判——アメリカ文学史の場合」参考文献
10/07 浅原須美(フリーライター)
   「花柳界の粋ー"もてなしの芸"に見る芸者の情と心意気」
10/14 小林康夫(東京大学教授: 表象文化論、現代哲学、フランス文学)
   「感情の対象について——オペラ「カルメン」を読む——」
10/21 吉田恭子(文学部: アメリカ文学、創作、比較文学)
   「情の技法のもつれ——アメリカの創作科と文学批評」参考文献
10/28 岡田光弘(コーディネーター)
   「知恵者(ホモサピエンス)に情は必要か—デカルト『情念論』の場合」参考文献
11/04 坂上貴之(コーディネーター)
   「悲しいから泣くのではない。ヒトは悲しいと名づけて泣く。 —情行為試論」参考文献
11/11 石川透(文学部: 国文学)
   「古典文学はどのように心を表現したか」
11/18 上田紀行(東京工業大学助教授: 文化人類学)
   「『弱きもの』の復権と世界の救済」
12/02 土居健郎(聖路加国際病院顧問)
   「甘えの概念について」 写真
12/09 Joseph Goguen & Ryoko Goguen (カリフォルニア大学サンディエゴ校)
   レクチャーコンサート「音楽と感情・意識」 <北館ホール> 写真
12/16 藤田善弘 (NEC マルチメディア研究所研究部長)長田純一(NECデザイン ソリューション・デザイン・グループ チーフデザイナー)
   「パーソナルロボットの研究開発—人と共生するロボットを創る」Web / 写真
01/13 小柳奈穂子(宝塚歌劇団演出家)
   「様式と情−「男役」という技法」参考文献
01/20 亀井俊介(岐阜女子大学教授/東京大学名誉教授: 米文学)
   「夏目漱石の『知』と『情』—文学論をめぐって」写真