2004年4月6日火曜日

2004年「情の技法II」

慶應義塾大学文学部設置総合講座 「情の技法II」

■講義要綱 
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」。おなじみ夏目漱石の『草枕』(1906年)の冒頭である。プラトンからカントを経て現代にまで至る西欧形而上学の伝統は、これまで知・情・意を基本に人間の認識能力を分析し再検討してきたが、それを極東の明治文学者は、限りなくブラックに近いユーモアで洒落のめしてしまった。

さて、昨年2003年度以来、わたしたちのオムニバス授業は以上の先人の洞察をふまえつつ、そもそも近代精神の発祥ともされる18世紀啓蒙主義時代において、そこで特権化されたのがたんに「知」ばかりでなく「情」でもあったこと、「知」と「情」をともに制御する営みこそ 21世紀にまで至る現代史の大きな課題であったことを、探求してきた。「知」に関してはいくらでもその遺産が蓄積され壮大なるアーカイヴが構築されてきたものの、記憶庫が構築されているものの、それでは「情」のアーカイヴは構築可能だろうか。「情」には情緒、情熱、感情など多様なる表情があるが、さてそれはたとえばemotionやsentiment, sympathyなどといかに重なり、いかに食い違うのだろうか。こうした側面に関する研究は、20世紀後半以後の知的最先端においては心性史の分野を確立したが、それは我が国独自の心性史研究として耕された九鬼周造の『「いき」の構造』などの伝統といかに相互交渉しうるだろうか。昨年度は、『「甘え」の構造』で知られる土居健郎氏や、「情の技法」の提唱者である亀井俊介氏など多彩な講師陣を迎えたが、今年度はその成果に準拠しつつ、さらに深く、「情」の構造と記憶と技術を探る。

■講義日程
04/13 コーディネーターによるガイダンス
04/20 Mannuela de Barros (パリ第8大学美学科助教授/視覚芸術専攻)
   "Machine and Passions: Automation, Cybernetics and Art"
04/27 巽孝之(コーディネーター)
   「アメリカ文学と反知性主義の伝統」参考文献
05/04 【休講】国民の休日
05/11 山本淳一(心理学専攻教授)
   「情の行動科学」
05/18 米沢嘉博(マンガ評論家)
   「愛と涙と物語と——マンガを中心に」
05/25 河内恵子(英文学専攻助教授)
   「汗と涙とロマンスと—— 第一次世界大戦とイギリス女性(作家)たち」参考文献
06/01 飯田隆(哲学専攻教授)
   「フィクションと感情」参考文献
06/08 河合正朝(美学美術史専攻教授)
   「日本の絵巻における感情表現」
06/15 渋谷望(千葉大学文学部助教授/社会学)
   「感情と権力」参考文献
06/22 三宅幸夫(美学美術史専攻教授)
   「菩提樹はさざめく」
06/29 常山菜穂子(法学部助教授/アメリカ文学)
   「19世紀アメリカン・メロドラマと<情>の操作」
07/06 坂本光(コーディネーター)
   「景色の中に「気持ち」を探す—— 19世紀英国における観光旅行の成立」
07/13 是枝裕和(映画監督/最新作『誰も知らない』)
   「誰も知らない情の技法」■教室変更(北館ホール) 写真
09/28 岡田光弘(コーディネーター)
   「論理の感情と感情の論理」
10/05 川上和久(明治学院大法学部教授/情報操作)
   「世論操作の技法」
10/12 岡原正幸(社会学専攻助教授)
   「公と私における情の技法——(ポスト)感情社会学」参考文献
10/19 新戸雅章(科学ジャーナリスト/テスラ研究所)
   「ニコラ・テスラと発明の世紀」
10/26 小倉孝誠(仏文学専攻教授)
   「恋愛小説の構図——近代フランスに即して」
11/02 宇沢美子(東京都立大学人文学部助教授/アメリカ文学・精神分析理論)
   「生まれ(ていなかった)故郷日本——オノト・ワタンナの日本感傷小説」
11/09 阿部祥人(民族考古学専攻教授)
   「石器によむ製作者の感情」参考文献
11/16 Bonnie Hoke & Dalton Baldwin レクチャーコンサート ■北館ホール■ 
   "The Art of Passions in Classial Song" 詳細
11/23【休講】勤労感謝の日/三田祭
11/30 近藤明彦(体育研究所教授)
   「スポーツにおける情のコントロール」
12/07 北中淳子(人間科学専攻助手/医療人類学)
   「鬱の時代」参考文献
12/14 生井英考(共立女子大学教授/写真史)
   「情の建築——戦争・記念碑・癒し」
12/21 坂上貴之(コーディネーター)
   「情行為試論2」
01/11 【休講】月曜補講日
01/18 吉行和子(女優)
   「フィクションに生きる」■北館ホール 写真